間葉系幹細胞用 無血清培地とは

間葉系幹細胞用 無血清培地とは?

再生医療や細胞治療の分野で、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: 間葉系幹細胞)が大きな注目を集めています。間葉系幹細胞は、私たちの体の中にある「幹細胞」の一種で、骨、軟骨、脂肪細胞といった様々な組織の細胞に分化する能力を持っています

それだけでなく、間葉系幹細胞は体内の損傷した組織に集まり、組織の修復を促す物質(サイトカインや増殖因子)を放出したり、過剰な免疫反応を抑えたりする(免疫調節能)といった、多彩な機能を持つことが知られています。

当記事では、間葉系幹細胞の基本的な特性から、その応用、そして臨床利用に不可欠な「培養」の重要性、特に培地が直面する課題について詳しく解説します。

目次

間葉系幹細胞の由来(骨髄、脂肪組織、臍帯など)

間葉系幹細胞は、体の様々な組織に存在しています。それぞれの由来によって、採取のしやすさや細胞の特性が少しずつ異なります。

  • 骨髄 (Bone Marrow) は、古くから研究されている間葉系幹細胞の供給源です。骨盤の骨(腸骨)などから採取されますが、患者さんへの負担(侵襲性)が比較的大きいという側面があります。
  • 脂肪組織 (Adipose Tissue)は、美容外科の脂肪吸引などで得られる脂肪組織から、比較的容易に、かつ大量に間葉系幹細胞を分離できます。骨髄に比べて侵襲性が低く、得られる細胞数も多いため、臨床応用において非常に有望なソースとされています。
  • 臍帯 (Umbilical Cord) 出産時に得られる「へその緒」(臍帯)や、そこに含まれる血液(臍帯血)も間葉系幹細胞の豊富な供給源です。特に臍帯組織(ウォートンジェリー)には多くの間葉系幹細胞が含まれています。これらは非常に未分化度が高く、増殖能力にも優れているとされています。何より、出産時に廃棄される組織を利用するため、倫理的な問題がなく、ドナーへの負担も一切ない点が最大の利点です。

この他にも、歯(歯髄)や胎盤などからも間葉系幹細胞は分離可能であり、治療目的や培養効率に応じて最適なソースが選択されます

再生医療や細胞治療への応用事例

間葉系幹細胞が持つ「多分化能」と「免疫調節・組織修復能」は、多岐にわたる疾患の治療に応用されています。

  1. 整形外科領域(組織の再生) 間葉系幹細胞が骨や軟骨に分化する能力を利用し、骨折の治癒促進、偽関節の治療、変形性膝関節症などによる軟骨欠損の修復といった研究・治療が進んでいます。
  2. 免疫疾患・炎症性疾患 間葉系幹細胞の強力な免疫抑制作用を利用した治療です。代表的なものに、造血幹細胞移植後に起こる重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の治療があります。その他、クローン病などの炎症性腸疾患への応用も研究されています。
  3. 神経系・循環器系疾患 間葉系幹細胞が放出する組織修復因子に着目し、脳梗塞脊髄損傷後の神経機能の回復、あるいは心筋梗塞後の心機能改善を目指した臨床試験が行われています。
  4. 美容・抗加齢(アンチエイジング) 皮膚の再生能力を高めるとして、しわやたるみの改善といった美容医療分野でも間葉系幹細胞(特に脂肪由来)の活用が始まっています。

培養の重要性と培地の役割

間葉系幹細胞を治療に用いるためには、患者さんに投与するのに十分な細胞数を確保しなければなりません。体から採取した細胞だけでは足りないため、体外で細胞を増やす必要があります。

この培養工程の品質が、最終的な間葉系幹細胞製品の安全性と治療効果を直接左右します。そして、培養の成否を決める最も重要な要素が、細胞の栄養源であり、住処となる「培地」です。

培地は、単に細胞が生きるための糖やアミノ酸、ビタミン(栄養素)を供給するだけではありません。間葉系幹細胞が「幹細胞」としての性質(未分化性)を保ったまま、活発に増殖するために必要な「シグナル」(サイトカインや増殖因子)を提供するという、極めて重要な役割を担っています。

したがって、高品質な間葉系幹細胞を安定的かつ効率的に製造するためには、その目的に最適化された培地を選択することが、細胞培養工場やクリニックにとっての生命線となります。


従来の血清添加培地の課題(ロット差・安全性・倫理問題)

伝統的に、間葉系幹細胞の培養には「ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum: FBS)」を10%~20%添加した培地が広く用いられてきました。FBSには多種多様な増殖因子が豊富に含まれており、多くの細胞を増殖させるのに有効だったためです。

しかし、ヒトへの投与を前提とした「再生医療・細胞治療」の分野において、FBSの使用には看過できない複数の課題が存在します。

1. ロット差(品質の不安定性)

FBSは天然物(ウシの血液)を原料とするため、製造される「ロット」(製造バッチ)ごとに含まれる成分の量や種類が大きく異なります。 「前のロットの培地ではよく増えたのに、新しいロットに変えたら増殖が著しく悪くなった」といった問題は、培養現場で頻繁に発生します。これは、安定した品質の細胞製品を製造する上で致命的な障害となります。

2. 安全性の懸念

ウシ由来であるため、プリオン(BSEの原因)や未知のウイルス、マイコプラズマなど、動物由来の病原体が混入するリスクをゼロにすることはできません。また、ウシ由来のタンパク質が培地に残留し、ヒトに投与された際にアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を引き起こす可能性も懸念されます。

3. 倫理的・供給上の問題

FBSは、食肉処理場で妊娠中のウシから胎児を取り出し、その心臓から血液を採取して製造されます。これは動物愛護(アニマルウェルフェア)の観点から大きな倫理的課題を抱えています。

これらの課題を克服するため、現代の細胞治療用間葉系幹細胞の製造現場では、FBSを一切使用しない「血清不使用(Serum-Free)培地」や、ヒト由来成分のみで構成された「無血清(Xeno-Free)培地」へ移行しつつあります。

さらに近年では、動物やヒト由来成分を使用しない「Animal Origin Free(AOF)」培地も登場しています。

まとめ

間葉系幹細胞(MSC)は、再生医療や細胞治療の未来を切り開く鍵となる細胞です。しかし、その治療効果を最大限に引き出し、安全な細胞製品として患者さんに届けるためには、体外で細胞を「培養」する工程が極めて重要になります。

本記事で解説したように、従来のウシ胎児血清(FBS)を用いた培養法には、「ロット差による品質の不安定性」や「動物由来成分による安全性の懸念」といった、臨床応用において致命的となり得る課題があります。

これらの課題を克服し、高品質なMSCを安定的かつ効率的に製造するためには、科学的根拠に基づき設計された「血清不使用培地」や、培養系を最適化する「高純度な培地添加剤」への切り替えが不可欠です。

株式会社PureCellは、間葉系幹細胞をはじめとする細胞培養の現場が直面する課題を解決するため、高品質な細胞培養用培地および培地添加剤を取り揃えております。

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