近年、再生医療や細胞治療の進展により、ヒト細胞の培養技術はかつてないスピードで進化を遂げています。その中で、従来の細胞培養に広く使用されてきた「FBS(胎児ウシ血清)」からの脱却が急速に進んでいます。
理由は明確です。「安全性」「倫理性」「再現性」のすべてにおいて、FBSには限界があるからです。
そこで注目されているのが、動物由来成分を含まないゼノフリーの血清代替品。本記事では、血清代替品 (ゼノフリー)が求められる背景と、具体的な代替手段としての「ヒト血小板溶解物(hPL)」の優位性について解説します。
従来のFBS(Fetal Bovine Serum)使用に潜むリスク
FBS(Fetal Bovine Serum)は、長年にわたり細胞培養の標準的なサプリメントとして使用されてきました。しかし、以下のような重大なリスクが指摘されています。
- 病原体混入の懸念:未知・既知のウイルスやプリオンなどが含まれるリスク
- 異種免疫反応:動物由来成分がヒト細胞に与える免疫学的な影響
- 供給の不安定性:ロット間のバラつきや価格変動
- 倫理的問題:胎児ウシから採取されるというプロセスに対する社会的批判
このような背景から、FBSの使用はEUではすでに禁止され、アメリカでも細胞治療製品において段階的な制限が進んでいます。
血清代替品(ゼノフリー)とは?
血清代替品(ゼノフリー)とは、「異種(xeno)由来の成分を含まない」という意味であり、特に動物由来成分を排除した製品を指します。ゼノフリーのサプリメントには以下のような種類があります。
- CDサプリ(ケミカリーディファインドサプリ):コストの高さと性能と汎用性に課題
- ヒトAB型血清:使用可能だが一部の細胞培養に限られている
- ヒト血小板溶解物(hPL):再現性・供給・性能の面でバランスが良い
中でも、hPLは細胞培養における最有力の血清代替品(ゼノフリー)の選択肢として注目されています。
また今後は、CDサプリは性能面での汎用性の課題が解決されれば、hPLに代わる血清代替品として台頭する可能性もあります。
ヒト血小板溶解物(hPL)の優位性
hPLには以下のような特長があります:
- 各種成長因子・サイトカインが豊富:組織修復や細胞増殖に不可欠なEGF、PDGF、VEGFなどを含有
- 細胞増殖率の高さ:5%濃度のhPLでも10%のFBSを上回る性能
- 多様な用途に対応:MSC、T細胞、ヒトNK細胞、CAR-T細胞の培養において優れた成果を示す
- ロット間の安定性:商用製品にはGMP準拠で製造された一貫した品質
- 安全性の高さ:FDAライセンスを持つ血液センターから採取された原料、病原体・マイコプラズマ・エンドトキシン検査済
まとめ
細胞治療が医療の中心に近づく今、「何を使って細胞を培養するか」は、ただの技術的選択肢ではなく安全性と社会的責任を問われる時代になっています。
hPLをはじめとするゼノフリー製品は、細胞培養の新たなスタンダードとなりつつあり、FBSに代わる“選ばれる理由”が明確に存在します。